
はじめに
「フリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が施行され、取引のルールが大きく変わりました。 この法律は、これまで労働基準法(労働者)や下請法(資本金要件あり)の隙間にあり、「保護の空白地帯」となっていた個人・小規模法人への業務委託取引を適正化するために作られたものです。
しかし、この法律には「自分が法律で守られる対象なのか? それとも重い義務を負う対象なのか?」を分ける、非常に重要な判定基準が存在します。 そのカギを握るのが、意外と知られていない「従業員の定義」です。
今回は、行政書士の視点から、運命を分ける「従業員の判定基準」と、それによって変わる「4段階の義務」について徹底解説します。
1. 私は守られる?まず「フリーランス」の定義を確認
この法律で「守られる側(フリーランス)」になるかどうか、まずは基本的な定義から確認していきましょう。法律用語では「特定受託事業者」と呼ばれますが、条件はシンプルです。
① 基本的な定義:以下の条件を満たす「個人」または「法人」
- 個人の場合: 従業員を使用していないこと。
- 法人の場合: 代表者以外に役員がおらず、かつ従業員も使用していないこと(いわゆる一人社長の会社)。
一見すると、「完全な一人でやっている人しか対象にならない」ように読めますが、ここで諦めるのは早すぎます。
② ここがポイント!「従業員」の判定基準
「自分はたまにアルバイトをお願いしているから、従業員がいることになる。だからフリーランスとして保護されないのでは?」 そう心配される方が多いのですが、この法律における「従業員」とは、以下の条件をすべて満たす者だけを指します。
【法律上の従業員定義】 週の所定労働時間が20時間以上 かつ 31日以上の雇用が見込まれる者
▼ 法律の趣旨(なぜこの定義なのか?) 労働基準法上の「労働者」は短時間のアルバイトも含まれますが、フリーランス新法ではあえて定義を絞っています。 これは、「繁忙期に少し手伝ってもらう程度のアルバイトがいるフリーランス」までも保護の対象から外してしまわないよう、広く救済するための配慮です。
その結果、あなたが週20時間未満のアルバイトを雇っていても、法律上は「従業員なし」とみなされ、新法による保護(報酬支払いの保証やハラスメント対策など)を受けることができます。
2. 「誰」から「どのくらい」? 4段階で積み上がる義務
次に、あなたが発注者として「どのくらいの義務を負うのか」を確認しましょう。 義務の内容は一律ではありません。「① 普通の発注者か、特定の発注者か」、そして「② 取引期間の長さ」という2つの要素を組み合わせた4つのステップで義務が積み上がっていきます。
まずは、義務が重くなる「特定業務委託事業者」に該当するかどうかのチェックからです。
義務が重くなる側(特定業務委託事業者)の判定
「自分は小さな個人事業主だから、発注者としての重い義務はない?」 → いいえ、義務が生じる可能性があります。
以下のいずれかに該当すれば、あなたは「特定業務委託事業者」です。
- 従業員を使用する個人・法人 (※ここでも「20時間・31日ルール」の従業員がいるかで判断します)
- 2名以上の役員がいる法人 (※従業員が0人でも該当します!)
▼ 要注意ポイント:役員2名以上の法人 「従業員もいないし、家族経営の小さな会社だから関係ない」と思っていませんか? もし、あなた(代表取締役)以外に、配偶者などを役員登記して「役員が2名以上」になっている場合、従業員が0人であっても自動的に「特定業務委託事業者」となります。 これは、役員が複数いれば「組織的に事業を行っている」とみなされるためです。
ご自身の立ち位置が分かったところで、具体的な4段階の義務を見ていきましょう。

【ステップ1】すべての発注者(基本の義務)
まずは、従業員の有無にかかわらず、フリーランスに仕事を発注するすべての事業者が対象です。
- 対象:すべての発注事業者(フリーランス間の発注も含む)
- 義務:
- 取引条件の明示(第3条) 口頭での発注はトラブルの元となるため禁止です。業務内容、報酬額、支払期日などを書面やメール等で明示する義務があります。
【ステップ2】特定業務委託事業者(体制の義務)
次に、先ほどの判定で「特定業務委託事業者(従業員使用または役員2名以上)」に該当する場合、契約期間に関わらず以下の義務が追加されます。
- 対象:特定業務委託事業者
- 義務:
- 期日内支払(第4条) 成果物を受け取ってから60日以内のできる限り短い期間内で報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません。
- ハラスメント対策(第14条) ハラスメント相談窓口の設置など、体制整備が義務付けられます。
- 募集情報の的確表示(第12条) 虚偽の求人や条件変更の明示などが求められます。
【ステップ3】期間が「1ヶ月以上」(禁止行為の義務)
「特定業務委託事業者」との取引で、契約期間が1ヶ月を超える場合、さらに義務が重くなります。
- 対象:特定業務委託事業者 × 1ヶ月以上の継続的業務委託
- 義務(第5条:7つの禁止行為) 立場の弱さに付け込んだ以下の行為が禁止されます。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 不当な経済上の利益提供要請
- 不当な給付内容変更・やり直し
【ステップ4】期間が「6ヶ月以上」(生活配慮の義務)
最も義務が重くなるのが、契約期間が6ヶ月を超える長期の取引です。
- 対象:特定業務委託事業者 × 6ヶ月以上の継続的業務委託
- 義務:
- 育児・介護等への配慮(第13条) フリーランスが育児や介護と業務を両立できるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
- 解除等の予告・理由開示(第16条) 契約を途中解除したり更新しない場合は、原則として30日前までに予告する義務が生じます。
3. 知財専門・行政書士からのアドバイス
ここまで見てきたように、フリーランス新法は「取引の適正化」や「就業環境」を守るための強力な法律です。しかし、クリエイティブな業務委託において最もトラブルになりやすい「著作権(知的財産権)」の取り扱いについては、この法律だけで自動的に解決するわけではありません。
成果物の作成委託(デザイン、執筆、プログラム等)では、著作権の譲渡や許諾が絡むことが多く、契約条項の精緻化が必須となります。
- 著作権は譲渡するのか、ライセンスなのか?
- 著作者人格権の行使はどうするか?
- 二次利用の条件は?
これらは、新法で義務付けられた「取引条件の明示(ステップ1)」の中に、しっかりと盛り込んでおく必要があります。
当事務所では、フリーランス新法に対応した契約書の作成やチェックはもちろん、著作権契約に関するコンサルティングも行っております。「自分の発注フローは法的に大丈夫か?」「契約書に不備はないか?」と不安な方は、ぜひ一度ご相談ください。
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