
プロに頼んだ写真の著作権は誰のもの?判例から学ぶ「職務著作」の壁
こんにちは、行政書士の中津川 浩淳です。
11月29日に開催された「知財ビジネス研究会」の活動報告、第3回目となります。 これまでの記事では研究会の様子などをお伝えしてきましたが、今回は当日の最後のテーマであった「著作権の実務事例」について、少し専門的な内容を掘り下げてご紹介します。
取り上げたテーマは、「カメラマンに依頼して撮影された写真の著作権は誰のものか?」です。 「お金を払って依頼したんだから、会社の物になるのが当たり前でしょう?」と思われがちですが、法律の世界はそう単純ではありません。
今回は、この議論の中で取り上げられた「重要な4つの判例」を詳しく解説しながら、企業が注意すべきポイントを紐解いていきます。
■原則は「作った人」が著作者。では会社のものになる条件は?
日本の著作権法では、原則として「実際に創作した人(この場合はカメラマン)」に著作権が発生します。 しかし、会社の業務として従業員が作った場合などは、会社が著作者になることができます。これを「職務著作(法人著作)」といいます(著作権法第15条)。
職務著作が成立するには、以下の5つの要件すべてを満たす必要があります。
- 法人等の発意に基づくこと
- 法人等の業務に従事する者が作成すること
- 職務上作成すること
- 法人等の名義で公表すること(プログラムを除く)
- 契約や就業規則に別段の定めがないこと
今回の研究会では、特に「業務に従事する者」の範囲や「発意」について、過去の裁判例を見直しました。ここが非常に判断が難しいポイントなのです。
■判例から見る「職務著作」の境界線
研究会で検討した4つの判例を、ポイントを絞って解説します。
1. オートバイレース写真撮影事件(知財高裁) これは、ある法人がフリーカメラマンに依頼してオートバイレースの写真を撮影してもらい、即時販売していた事例です。 地裁では「職務著作にあたる(=権利は会社)」と判断されましたが、知財高裁では逆転し「職務著作ではない(=権利はカメラマン)」とされました。
- 【判断のポイント】 裁判所は、フリーカメラマンは「プロの写真家として行動していた」ものであり、法人の「指揮監督下において労務を提供していた実態までは認められない」としました。
- 【教訓】 高度な専門性を持つ外部のプロに仕事を依頼する場合、「職務著作」の成立を期待するのは危険です。必ず別途「著作権譲渡契約」を結ぶべきです。
2. RGBアドベンチャー事件(最高裁) こちらは、フリーランスや業務委託であっても職務著作が認められた事例です。
- 【判断のポイント】 最高裁は、契約書の名称(雇用か委託か)といった形式にとらわれず、実態を重視しました。 具体的には、①法人の指揮監督下で労務を提供しているか、②支払われる金銭が労務提供の対価と評価できるか、という点を総合的に判断しました。
- 【教訓】 フリーランス契約であっても、実質的な指揮監督関係があれば職務著作になり得ます。契約名だけで安心してはいけません。
3. 宇宙開発事業団プログラム事件 「法人の発意」がどこまで認められるかが争点となった事件です。
- 【判断のポイント】 具体的な指示がなくても、その作成が職務遂行上「予定または予測される限り」、法人の発意があったと広く解釈されました。
- 【教訓】 従業員の職務範囲が広い場合、自主的に作ったものも会社の権利になる可能性があります。トラブル防止のため、会社は職務内容を明確に定義しておくことが重要です。
4. 経営コンサルタント書籍執筆事件 経営コンサルタントである従業員が執筆した書籍について、会社が権利を主張した事件ですが、裁判所はこれを退けました。
- 【判断のポイント】 会社のPCや会議室を使っていたとしても、執筆依頼が個人宛てであり、原稿料も個人に支払われていたことから、「会社の発意(業務としての企画)」ではないとされました。
- 【教訓】 従業員が個人で仕事を受ける際は公私混同を避け、会社として関与するなら必ず会社名義で契約する必要があります。
■「なんとなく」の依頼はトラブルの元
このように判例を見ていくと、外部のカメラマンやクリエイターに依頼する場合、「職務著作」として処理するのは非常にハードルが高いことが分かります。 研究会でも**「やはり、最初の契約で権利の帰属を明確に定めておくことが、紛争を防ぐ唯一の方法だ」**という結論に至りました。
しかし、契約書の重要性はこれだけではありません。 今回の研究会で、私が他のメンバーに提起した**「ある新しい法律」**の視点があります。これを無視して契約書を作ると、これからは法令違反になる恐れがあるのです。
これについては、次回の記事(第4回報告)で詳しく解説します。
