
こんにちは。
令和7年11月29日、私が参加している「知財ビジネス研究会」の勉強会が開催されました。 この研究会は、知財業務を専門とする静岡県内の行政書士有志が集まり、実務上の課題や最新の法改正について議論を交わす私的な勉強会です。
今回のテーマは、この日2つ目の事案で企業の広報担当者や個人事業主の方にとって非常に身近な「ホームページ(HP)作成と著作権」についてでした。
「HPなんて業者に任せているから大丈夫」と思っていませんか? 実は、研究会で検討した事例からは、意外な落とし穴が見えてきました。今回はその議論の一部を、判例の考え方を交えてシェアします。
1.「HPはプログラム」ではない? 意外な判断基準
まず議論になったのが、「ホームページは著作権法上、どう扱われるのか」という点です。 HPはHTMLやCSSといったコードで書かれているため、「プログラムの著作物」として保護されるイメージがあるかもしれません。
しかし、過去の判例や通説では、HPの創作性は「PC画面に表示された、目に見える内容」で判断されるという考え方が一般的です。 つまり、裏側のコード(記述)そのものではなく、画面上に現れる写真、イラスト、文章、動画、そしてそれらの配置や配色といった「編集著作物」としての側面で権利侵害の有無が争われることが多いのです。
「コードを書き換えたから大丈夫」ではなく、「見た目が似てしまったらアウト」になり得る。この視点は非常に重要です。
2.「丸パクリ」でも不正競争防止法で勝つのは難しい
次に、「他社に自社のサイトデザインを真似された場合」の対策です。 「デザインを盗用されたのだから、不正競争防止法で訴えられるのでは?」と考える方も多いでしょう。
しかし、今回の研究会での結論は「ウェブサイトの模倣で、不正競争防止法を適用するのはハードルが高い」というものでした。 不正競争防止法は、主に商品形態の模倣(デッドコピー)などを規制するものですが、ウェブサイトのデザインが似ているというだけで直ちに同法の保護対象(商品の形態)とは認められにくいのが現状です。
単純な文章のコピーなどは著作権法で処理されることが多く、ビジネスモデルやデザインの模倣といった広範な問題を不正競争防止法で解決するには、厳しい要件をクリアする必要があります。 だからこそ、事後的な争い(裁判)に持ち込む前に、予防策を講じることが何より大切なのです。
3.トラブル回避の鍵は「契約書」にあり
では、どうすればトラブルを防げるのでしょうか。 HP制作会社に外注する場合、最も重要なのは「契約書」です。
① 著作権の「所在」を確認する
契約書に明記がない場合、HPの著作権は原則として制作会社(作成者)に帰属します。 お金を払ったからといって当然に自社のものになるわけではありません。後々のトラブルを防ぐため、著作権(財産権)を自社に譲渡してもらう契約にしておくことが推奨されます。
② 「著作者人格権の不行使」特約
ここがプロの視点です。 著作権を譲渡してもらっても、制作会社には譲渡不可能な「著作者人格権(特に同一性保持権)」が残ります。これにより、納品後に自社でHPを修正・変更しようとした際、「勝手な改変は認めない」と言われてしまうリスクがあります。
これを防ぐためには、契約書に「著作者人格権を行使しない」という特約(不行使特約)を盛り込んでおく必要があります。
まとめ
今回の研究会を通じ、改めて「HP制作における契約書の重要性」を痛感しました。 ウェブサイトは企業の顔ですが、権利関係があいまいなまま運用されているケースが少なくありません。
「静岡の行政書士による勉強会」ならではの、実務に即した熱い議論が行われた今回の研究会。 当事務所では、こうした最新の知見を活かし、HP制作委託契約書の作成やチェック、著作権コンサルティングを行っております。 「うちは契約書がないけれど大丈夫?」と不安になられた方は、ぜひ一度ご相談ください。

