
私が所属している「知財ビジネス研究会」での勉強会(11月29日開催)の内容をもとに、SNS利用における著作権の注意点についてシェアします。
今回は全3回シリーズの第1回目です。テーマは、皆さんも日常的に利用しているであろう「SNSでのリツイート(リポスト)」についてです。
【知財ビジネス研究会コラム①】「リツイート」しただけで著作権侵害?最高裁判決から学ぶSNSのリスク
「知財ビジネス研究会」とは?
本題に入る前に、少しだけ私たちの活動を紹介させてください。 「知財ビジネス研究会」は、静岡県内の行政書士有志による勉強会です。著作権をはじめとする知的財産(知財)業務を専門的に扱えるよう、毎月1〜3つの具体的な事案(ケーススタディ)を持ち寄り、法的観点から検討を行っています。
11月29日の定例会では、SNS利用に関する非常に身近で、かつ怖い事例について議論しました。
事例:「知らない人から削除要請が来た!」
今回検討したのは、以下のようなケースです。
普段からSNSを楽しんでいるあなたが、タイムラインに流れてきた素敵な写真を何気なく「リツイート」しました。 すると後日、面識のないAさんから「私の写真を勝手に使って著作権を侵害している。削除してください」というメッセージが届きました。 あなたはAさんを知りませんし、リツイートした投稿もAさんのものではありませんでした。 「えっ、自分が画像をアップロードしたわけじゃないのに? ボタンを押しただけで侵害になるの?」
この場合、あなたは著作権侵害をしたことになるのでしょうか?
結論:侵害になる可能性があります
この問題の鍵は、あなたがリツイートしたその投稿が、「誰による投稿だったか」にあります。
- 著作者(Aさん)本人の投稿をリツイートした場合 これは原則として問題ありません(セーフ)。 X(旧Twitter)などの利用規約では、ユーザーが投稿した時点で、そのコンテンツがリツイート等の機能で拡散されることを許諾する内容が含まれているからです。
- 無断転載された投稿(Bさん)をリツイートした場合 これが問題(アウトの可能性大)です。 誰かがAさんの写真を勝手にアップロード(無断転載)し、それをあなたがリツイートしてしまった場合、たとえあなたに悪気がなくても、結果として著作権(公衆送信権など)や著作者人格権を侵害したとされるリスクがあります。
衝撃の最高裁判決「リツイート事件」
実は、この論点については最高裁判所による重要な判決が出ています(令和2年7月21日判決)。
この裁判では、無断転載された写真をリツイートした人が、著作者の「著作者人格権」を侵害したかどうかが争われました。 ポイントは以下の2点です。
- 同一性保持権の侵害: リツイートした際、タイムライン上で画像が自動的にトリミング(一部切り取り)されて表示されたこと。
- 氏名表示権の侵害: 元の写真には著作者名が入っていたのに、トリミングによって名前が見えなくなってしまったこと。
「画像が勝手にトリミングされるのはアプリの仕様(Twitter社のせい)でしょ?」と言いたくなりますよね。 しかし裁判所は、「そのような仕様のシステムを利用してリツイートしたのはユーザー自身の行為である」として、リツイートした人の責任を認めました。
つまり、「アプリが勝手にやったこと」という言い訳は通用しないのです。
令和7年現在、私たちが気をつけるべきこと
この判決以降、令和7年現在に至るまで基本的なルールは変わっていません。 むしろ、「違法ダウンロード規制の拡大(令和3年)」など、ネット上の著作権ルールは厳格化しています。
トラブルに巻き込まれないために、以下の3つのポイントを守りましょう。
- 「リツイート」と「スクショ投稿」は別物! 公式の共有ボタン(リポスト)は規約上許容されることが多いですが、スクリーンショットを撮って自分の投稿としてアップするのは「無断転載」と判断される可能性があります。十分に注意しましょう。
- リツイート前に「出所」を確認する その投稿をしている人は、本当にその写真の撮影者ですか? 「画像に投稿者以外の名前が入っている」「プロフィールが怪しい」など、出典が不明確な投稿はリツイートを避けるのが無難です。
- 商用利用は特に注意 ご自身のビジネスアカウントで、集客や宣伝のために他人の画像を安易に使う(リツイート含む)のは大変危険です。
SNSは便利ですが、ボタン一つで他人の権利を侵害してしまうリスクも秘めています。 「知財ビジネス研究会」では、こうした身近なトラブルについても深く研究しています。
もし、著作権に関するトラブルや疑問、契約書の作成などでお困りの際は、当事務所までお気軽にご相談ください。

